思い出が溶けた雨。
僕は今のデジタルカメラを使う前に(今も使っているけども)
フィルムのコンパクトカメラを使っていた。
その前はポラロイド。
その前はLOMO。
大学に入ってからある友人の勧めでカメラをはじめたのだけど、これが面白くてしょうがない。
以降、僕はことある度にシャッターを押して、いろんな時間を収めてきた。
その数千にもなる莫大なプリントが、先日捨てられていた。
昼過ぎに目が覚めて、ぼんやりと居間で煙草をくゆらしていると、隣の縁側に見覚えのある紙袋。
ここのところの雨でズブ濡れになってしまった紙袋の中には、その写真の山が。
最初は自分のものと思えなかった。
しかし、よくよく見ると自分の撮った写真の山。
どうやら家族の誰かが部屋にあった紙袋を勘違いして捨ててしまったようだ。
すべては雨でインクを流されてしまい、見るも無残な姿に。
インク臭くてドロドロになった紙袋から、結局助かったのは10分1以下。
その写真を整理して、乾燥している間にいろんな思い出が出てきた。
昔好きだった女の子、よく家で酒を飲んでいたこと、ファミレスで何時間もお茶を飲んでいたこと。
今からすれば、どれも遠くて懐かしい「過去」。
そして、その写真の何人かは、もう連絡のできない「過去の人」になっていた。
あぁ、あの人に会いたい。あの人と話したい。そんな気持ちばかりがこみ上げる。
しかし、回りのインクが抜けたせいで、さらに味を出した写真たち。
もう会えないあの人に会いたい。なんだか。どうしようもなくもどかしい、ロマンティックな気分になった。