エロい。 | えのきさんの痴漢日記

エロい。

土曜日の仕事の帰り。

僕の向かう街では、友人たちが数人集まってタイ料理を食べているらしい。

 

僕は腹を空かして、小走りになりながら日比谷線の電車へと乗る。

普段見ている日比谷線と違って、週末の日比谷線は、デートや飲み会の帰りだろうか、

暖かい空気が全体に充満している。僕は思わずジャケットを脱いで、ぼんやりと車内を見渡す。

僕は腹が減っているからとても不機嫌だった。だから、とっても敵対的なTOBしかねない目線だったはず。

本を読もうとしたのだけども、読んでいる中、いつまでたっても気に入らない傲慢な本しかなかったもので、

その場では読まないことにした。そうだ、家に帰ったら捨てよう、とも思っていた。

 

だから、僕は自分の空腹を満たすような不快感を与えない光景をずっと見張っていた。

すると、自分の座席の目の前に座る女に目が留まった。

年で言えば二十歳前後であろうか、着飾ってはいるものの、その服装に着られている感が強い。

まだまだ処女のような野暮ったさを持っているような女だった。

僕は女の行動をじっと見つめる。

彼女は何かを確認するようにキョロキョロと周りを見渡す。何か告白するかのように、何かを隠すように。

土曜の10時過ぎ。周りの乗客は各々の世界に入っていて、彼女の行動なんて誰も見ていない。

周りを見て、彼女はそれを安心したのか、じっとかばんの中身を見つめている。

彼女のかばんの中身には何があるのか、僕は空腹をすっかり忘れてその行動に凝視する。

 

すると、彼女はかばんの中からゆで卵を出したのだ。

そう、丸い、白いゆで卵。

銀色のアルミホールの銀紙をはがして出てきたその白いゆで卵はすでに殻をむかれて、

白く光る卵白を露にしている。女はその卵白の輝きを一瞬ためらうように目をそらしたが、

意を決したように、思い切り頬張る。卵の半分くらいだろうか、女は大胆に口にくわえ、口を動かして租借をする。

そして、しばらく租借している女の顔は、恥じらいと満足感の入り混じった表情になり、口の中の

卵は減っていくにしたがって、満足の割合が多くなっていく。

そして、口の中から卵がなくなった女は、上唇に若干ついている黄身が気になったらしく、

舌でペロッとなめる仕草をする。長い舌で、右側から左の唇へ、その黄身の粉を拭き取るように何度も舐めつけるのだ。

その仕草がまた、大人の女のそれと違って、違和感のあるぎこちなさが残る

舌なめずりであった。

僕はその女の仕草を薄目を開けて、その仕草を見ていたのだけども、女のかばんからゆで卵が何個も

出てくるのである。2個目、3個目と、女は最初の羞恥心を忘れて、その食べるスピードを速める。

最後に女が卵を食べたのは何個だろうか、僕はその姿に呆気をとられて、いよいよその数を数えることも忘れてしまった。

気づけば女は上野あたりで下車をして、上野の町へと消えていった。

僕は消えていった女の今後の行動を想像してみたけども、僕の頭の中では想像のつかない世界のような気がした。

その女はどこか僕の遠いところに住む女なのかもしれない。

ただ、電車を降りた瞬間に思ったのが

「こういうのが一番エロいんじゃないか?」なんてこと。

やっぱり、女というのは、生きている自体でエロいのかもしれない。

男はそのエロティックな世界に翻弄されているのかもしれない。