飲んでいるから言う訳じゃぁねぇが。 | えのきさんの痴漢日記

飲んでいるから言う訳じゃぁねぇが。

夜中。
いや、明け方の五時。
この街に住んでいる全ての生き物は休んでいる。
世界が活動をするのには早すぎる。
眠るにしては遅すぎる。
僕はその時間をノートパソコン一台で戦っている。
この時間を支えているとしたら、僕だ。
僕は今、たった一人でこの時間を支えている。
たった一人の無力な男が、君らの安眠を守っている。

かつて、つきあっていた女性と口論をしたことがある。
大人しい女性で、僕は彼女と別れるまでこの口論の他、したことがない。
その口論の問題は「人は誰に日記を綴るのだろうか」という話だった。
僕は読者のいない文章など存在しないと口を尖らせて言った。
彼女は自分に聞かせるべき文章があると言った。
そして、僕らはソファに座って延々と口論を行った。
今にして、思うことがある。
「彼女の考えた文章は、お体裁を考えない純粋な文章」だった、ということを。

だから、僕はこの時間に考える。
世の中の全てが終わりに向けてまとめようとしている時間に。
世の中の全てが始まりに向けてまだ固形化していない時間に。
しかし、僕は無力だ。
時間を支えることで精一杯で、その時間を解決することを知らない。
僕は全ての文章に意味を持たせたい。文字の孤児をなくしたい。
しかし、僕はその作業に必死になっていて、その先の時代を作れない。

だから、思うのかもしれない。
時には、自分のための文章も必要なのかもしれない。
時には、誰かひとりのために語るべきストーリーが必要なのだと。

それでも僕は書き続ける。
君やあなたや、オマエに伝えるべき話を。
自分のためにも書き続けるべきストーリーを。
それができあがったとき、僕は誰かに語るのかを感じればいい。
もう書き始めてしまったのだ。誰のためなんか、その後でもいいかもしれない。